近年の個人情報保護法改正により、従来の名簿を活用した営業が難しくなった。ダイレクトメールや電話勧誘といった手法は下火となり、振袖業界の集客はホームページ、SNS(ソーシャルネットワークサービス)、ウェブ広告といったオンライン手段へと移りつつある。しかし、実際の現場で何が起きているのかは意外と知られていない。そこで、オンライン戦略に強い制作・コンサルティング会社VERDE OLIVA(ヴェルデオリーヴァ、京都市=小林力代表)に、2025年夏の最新状況を聞いた。
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▽「差別化」が勝敗を分ける
「単に『安い』『商品数が多い』だけでは成果は出にくい。他店にない魅力を明確に打ち出すことが重要だ」と小林代表は語る。
SNSやウェブ広告は、ある程度の型がある。「品揃え」「提携美容室の数」「価格」といった要素が全面に出されやすい。そのためどうしても広告の内容が似通い、投稿の量や質で勝る大手や有力店が有利になりやすい状況だ。とくに写真や動画といった素材は、資金力のある店舗ほど豊富に準備できるため、小規模店にとって不利な状況になりがちだ。だからこそ、中小店は基本をおさえたうえで、「自店ならではの強み」を打ち出す広告や投稿づくりが求められる。例えば、「長身、ふくよか体型にも対応」、「あの、○○神社でロケ撮」、「いまどきメイクに対応」など、三者三様だろう。
最近注目されているのが「近くで、丁寧。」を合言葉にした地域密着の発信だ。スタッフの顔や声を出した投稿や、地元の神社・成人式会場・学校行事といった“生活に根ざした情報”を盛り込むことで、顧客に安心感を与えることができる。たとえばある店舗の「ゆかたキャンペーン」では、地域のお祭りに合わせて告知する広告を一部盛り込んだところ、一般的な内容よりも高い効果を上げたという。
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▽デジタルの強みを活かす
「SNSやウェブ広告は、使った費用と効果が数字で見えるのが強み」と小林代表は言う。予約フォームに追跡機能を付けておけば、申込みがどの経路(SNS投稿か広告か)から来たのかを把握でき、改善にも直結する。
「中小店は『広く打つ』のではなく、『地域』『季節』に合わせてピンポイントで配信するのが効果的」とも指摘する。
目標は必ず数字で管理する必要がある。新成人人口が200人の地域であれば、20%にあたる40件の成約を目標に掲げ、そこから年間の制作本数や広告配信数を逆算して計画する。このような「数値管理」が、継続的な成果につながる。
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▽大きなトレンドの変化、ショート動画に期待
大きく状況が変わりつつある。従来の「画像」や「テキスト」主体の広告宣伝から、「短い動画(ショート動画)」広告宣伝へと、この夏にトレンドが一気に傾いた。
とくに成果を上げ、各社が注力しているのが、ショート動画の継続的な発信だ。若い世代には流行を感じさせ、親世代には安心感のある情報として届く。近年は親世代も動画に慣れてきており、世代をまたいだ相乗効果が期待できる。
内容はシンプルでよい。卒業生の振袖姿、体型に合わせた工夫、撮影当日の様子などを短く紹介するだけで、「自分もこうなるのだ」と顧客がイメージしやすくなる。重要なのは継続性だ。同じテーマで毎週発信を続けることで、検索から見つけてもらえる力、店名で探してもらえる力が徐々に育っていく。
中部地方のある呉服店では、ショート動画広告を1年間継続して出稿したところ、売り上げで約1・5倍、催事への申し込み数で前年度比2倍近くになった事例もある。