―地域と文化をつなぐ成功事例―
いま呉服業界は、着用機会の減少や職人不足といった構造的課題に直面している。とくに、既存顧客名簿以外の新規顧客をいかに獲得するかは、多くの小売店が抱える共通の悩みである。そうした中、オンラインとリアルを融合させた施策によって成果を上げているのが、VERDE OLIVA(ヴェルデオリーヴァ・京都市=小林力代表)による「ゆかたキャンペーン」だ。
同社による実例のレポートをもとに、その手法と成果を業界視点から紹介する全5回シリーズの第一回目として「ゆかたキャンペーン」の紹介をお送りする。
浴衣を入口にした新規層開拓
ゆかたは季節感と親しみやすさを兼ね備え、一般呉服の顧客から振袖を検討中の顧客まで幅広い層への接点を生みやすいアイテムだ。ゆかたキャンペーンでは、ゆかたの無料配布や廉価販売などの企画を軸に、SNS広告(InstagramやFacebookでの広告配信、短期間集中型の告知による話題化)やオンライン投稿企画といったデジタル施策を組み合わせ、既存名簿外からの反応獲得を狙う。一般呉服でも、振袖でも応用が可能だ。
VERDEOLIVAでは、とくにSNS広告などのオンライン広告からキャンペーン告知ページへ誘導し、アンケート回答や事前申込みを経て店頭で商品を受け取る導線を構築。文化体験としての「ゆかた」の魅力を前面に押し出すことで、参加者の心理的ハードルを下げることを狙った。例えば振袖対象者へのゆかたの廉価販売キャンペーンでは、地域の花火大会や夏祭りといった実際の着用シーンを想起させる広告表現を用い、購買意欲を自然に高める工夫を行ったことが効果を高めたことが成功につながった。
また、VERDEOLIVAでは若年層に人気のSNSプラットフォームであるTikTok(ティックトック)に、キャンペーン専用の短編動画や紹介コンテンツを投稿している―ご関心ある方は「きもの大好きラボ」で検索のこと。これにより、若い世代が気軽にキャンペーン情報に触れられる環境を整え、参加への心理的ハードルを下げている。
大きな成果と広がり
今年六月、西日本のある店舗で実施された一般呉服向けの事例では、約18万円の広告投資で百件超の申込みを獲得。申込単価は千円台半ばに抑えられ、特にSNS広告からの反応率が高かった。申込者の多くが、既存の顧客名簿にはない新規層であり、オンライン施策が実店舗への送客に直結することが示された。
浴衣を入口とする集客施策そのものは全国各地で行われているが、オンライン広告やSNS企画と密接に連動させたモデルはまだ少ない。今回の成功は、地域イベントや季節行事と組み合わせることで、より持続的かつ広域的な集客モデルとして展開できる可能性を示すものだろう。
今後は、広告の出し方をより的確にし、季節に応じた内容に切り替えるなどの工夫が求められる。また、集まった顧客データを活用し、再来店を促す仕掛けを組み込むことで、さらなる成果が期待できる。こうした取り組みを積み重ねることで、集客効率の向上と着物文化の継承という二つの課題解決につながっていくだろう。