【取材記事】 Y呉服店主催「ハタチコレクション」にみるZ時代の振袖体験 (外部ライター・片山)

縮小傾向が続く呉服業界の中で、着実に成果を上げる店舗にはどのような工夫があるのか──。

本連載の第2回は、A県T市に11店舗を展開するY呉服店が主催する「名古屋ハタチコレクション(通称・ハタコレ)」を取材した。

10月19日(日)、成人式が迫り、振袖選びへの関心も高まる秋頃に津島文化会館にてハタコレは開催された。主な概要は、Y呉服店で振袖を成約した顧客の中から応募・選出された38名がランウェイを歩き、Z世代に人気のアイドルやモデルもゲスト出演するファッションショーである。

チケットは夏頃から一般販売を開始。Instagram広告やTikTok動画など、10代・20代に身近なSNSを活用したプロモーションが奏功し、販売は好調。友人同士のシェア投稿を通じて話題が広がり、チケットは完売となった。

本番前、出演者の女の子たちにインタビューすると、「少し緊張している」と笑顔を見せながらも、「パンフレットが届いた」「友達と振袖の話になった」ことをきっかけに成人式を意識し始めたと教えてくれた。
振袖の入手方法は購入よりもレンタル派が大半を占め、お店選びの理由としては「家から近い」「展覧会のパンフレットを見て」など、身近さと情報の接点が重視されていた。

Y呉服店では定期的に「大振袖博」を開催し、実際に振袖を見て、触れて、比較できる機会を提供している。名古屋の若い女性たちにとって、この“体験”こそが振袖選びの決め手になっているようだ。

会場には出演者の親御さんや祖母の姿も多く見られた。娘や孫がランウェイを歩く姿をスマートフォンで撮影しながら、笑顔で見守る光景が印象的だった。

振袖を主役に据え、三世代が一緒に楽しめるイベントは珍しい。観客の中には、普段は着物に馴染みのない若者も多く、振袖に触れるきっかけとしても貴重な場であるように感じる。

消費行動が「モノ」から「コト」へと移行する今、振袖という伝統衣装を通じて“体験”を提供することは大きな意味を持つ。

思い出に残る体験が生まれ、そこから自然に購買へとつながる仕組みづくり――それこそが、令和の呉服業界を生き抜くための新しいアプローチなのかもしれない。

 

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