倒産や市場の縮小の暗い話題の多い昨今、売上を伸ばしている店の本質(催事企画や小手先でない)に迫る取材を、外部ライター(小林力)を通じて行った。第一回目の今回は、淡路島・徳島で「Kimono唐草」を展開する中西呉服店(兵庫県洲本市、中西仁志社長)を訪問した。
同社の創業は大正2年で、今年創業112年を迎えた。この日は、淡路本店スクエア(会場は200坪3フロア70%使用)で「創業112周年の創業感謝祭」(9月12〜15日)が行われていた。予備知識によると、同社は創業以来「誠実一筋」に100周年を迎え、次の100年は「きもの発展の100年」に置き換えて宣言しており「昨年は淡路島の中学校全てに着付教室を実施し、着付け人は淡路・徳島エリアで5000人余」と言う。
正面入口を入ると、いきなり「カラオケ会場」になっていて、着物姿のお客様の歌声が聞こえてきた。司会進行役は中西社長自らが担当。1階は非呉服会場と2階まで吹き抜けのカラオケ会場になっていた。周り階段を上がると「假屋崎省吾」先生の「華展」が展覧され、その先は、お客様とスタッフで賑わっていた。取材すると、「着装されている方は12組。予算は4日間で3000万円を超える勢い」との返事が返ってきた。今回の商品展開は、大松から提供を受けた「假屋崎省吾」先生の作品展をメインに、特選加賀友禅、西陣・佐織、上村拓馬、佐波理、という構成。
大女将の中西早苗専務取締役に、動員の要素・ポイントを尋ねると、明快に「着物が好きな人との普段からのお付き合いを大切にしている。非日常空間が楽しめる空間を演出して、年3回だけの本社催事を楽しみにしていただいている。それと、品ぞろえが充実していて、見応えのあるきものを揃えること」との答え。そして、「110周年の時にそれまでは唐草購入の着物に限って、着付けを無料で行っていたが、どんな方のどんな着物も、着付けは無料ですることに決めた。買った人とか買わない人ではなく、どんな人も着物が着たい人には無料で行うように決めたのが110周年だった。今年は112周年で、そういう考え方が行き渡って来ている感がある」とし、さらに「110周年になったときに社長と皆んなで決めたのが『街のみんなが着物を着る街にする』という考えに行き着いた。着物って着ても着なくてもいいものだけども、着物を着ることを大切にしているお客様の着物に対する気持ちに前を向いていくこと」と述べていた。着物に対する思いを大切にするという理念の下で事業に邁進している姿を実感させられた。
もう1人、企画室の宮本貴之部長に、今回のイベントへの勧誘について聞いてみた。「通常の勧誘に関しては、基本的に電話勧誘で行うのですが、今回は直接面談を行って、このスクエアの動員をかけている。一人一人自分がこの人を呼びたいっていう人に直接会って予約を取っていくというところを心掛けました。もう皆勤賞を狙っているお客様もおられました」と。今回の取材を振り返って感じたことは、「日頃の生活活動から地元を愛し、きもの好きさんを集め、育て、取引先との関係を大切にし、スタッフに売り上げだけでなく、きもの愛を徹底させている繁盛店であった」と言える。